もう一つのトレードオフ

 水道水の事例のように社会的な問題を考えると,リスク間にはもうひとつ別のトレードオフがあることに気づきます。
例えば,PCB処理施設をめぐって論争が起きている地域があります。
PCB処理は,健康や環境リスクを削減しますが,処理施設の建設地周辺にはPCB処理に伴うリスク(施設の事故や漏えい)が増大してしまいます。
同様に,先進国での環境規制が厳しくなると,先進国の環境リスクは削減されますが, 企業が規制の甘い途上国で操業すると途上国の環境リスクは増大してしまいます。
経済的負担(リスク)を削減するために温暖化対策を先送りにしてしまうと, 将来世代は深刻な環境リスクに直面しなければならないかもしれません。このように,私たちのリスクを削減しようとすると, 異なる人々のリスクを増大してしまう可能性があります。異なる集団間のリスクのトレードオフはしばしば社会的な論争を引き起こします。
より全体的な視点でリスクを考えることや,リスクに関連する人々が社会的な意思決定に参加すること, 決定に関われない将来世代や社会的弱者がある場合には倫理的な問題にも考えることなどが必要でしょう。