リスク・コミュニケーションにおける組織問題

感情もしくは信念に関わる制約要因

 リスク・コミュニケーションを失敗させる組織要因として、あなたやあなたの組織の内面的な問題があります。 というのも、コミュニケーションは、言葉や情報を伝達するだけではなく、あなたの感情や信念、組織の態度まで伝えてしまうものだからです。 (→メイラビアンの法則)

 特に問題となるのは、人々を対等なパートナーとして見なさないことと、人々は科学を理解できないと信じていることです。



一般公衆との対等な関係を望まない

 リスク評価とかリスク管理というと、多くの人々が'論理的'であろうとします。つまり、リスク評価や管理は, 科学的な分析や経済性などを使って論理に判断すべきだと考えられています。また、科学的論理的な判断は、よく知っている人々や組織 (つまりリスク評価の専門家や経営者)によってなされるべきだと考えられがちです。

 しかし、効果的なリスク・コミュニケーションを行おうと思えば、人々の感情や信念や政治思想を考えなければなりません。 例えば、科学的なリスク評価は様々な仮定をおいて実施されます。この仮定が妥当でなければ、科学的なリスク評価結果を受け入れることはできないでしょう。 子供のリスクを心配している市民に、成人男性のデータを使った評価を示しても、納得してもらえるどころか、市民の心配事に対する配慮がないと反感を抱かれてしまうでしょう。

 こういったことを理解しようとしない意思決定者と活動をともにするのはやっかいなことです。 こういう人々には、彼らの究極的な目的を思い出してもらいましょう。もし、あなたの組織がリスク・コミュニケーションに失敗すれば、 社会的信頼を失い、事業活動は暗礁に乗り上げてしまうのです。

 多くの事例が示しているように、リスクに関わる決定は、関係するすべての集団が同意できるものでなければなりません。 論理的で科学的で経済的な判断のみを押し通すのは、時間の浪費を招くばかりでしょう。 また、最初の段階で受容してくれそうだったにも関わらず,人々への情報提供が遅れ、意見を聞かなかったために、 後のプロセスが進まないということはよくあることです。

 「我々が決めることである」という信念を変えることは非常に困難なことです。 もし、あなたやあなたの組織が、人々の意見を聞くことに抵抗を感じているなら、その理由を考えてみましょう。 人々と話をする機会がないからでしょうか? それとも人々と話をしても役に立たないとか、有意義なコミュニケーションが行われないと感じているからでしょうか?

 

 多くの成功例が、あらゆる関係者に情報を提供し、意見を聞くことの重要性を示しています。



市民は科学を理解できないという思い込み

 しばしば、あなたやあなたの組織の人々は次のような発言をするかもしれません。

「このように複雑で専門的な内容を一般の人にわかりやすく説明することなどできない。」
「一般の人にわかりやすく話すことは広報の仕事である。」
「科学技術の基礎的な知識のない一般の人は理解できないだろう。」

 第一に考えなければならないことは、「わかる」というのはいろいろなレベルがあるということです。 あなたがリスクの科学的評価を理解しているとして、最初から現在と同じ理解レベルにあったでしょうか?  一般の人々に最初からあなたと同じレベルの理解を求めてはいけません。また、あなたは科学的評価のやり方を説明しようとするかもしれませんが、 一般の人々はそれが「何を評価しているのか」を知りたいのかもしれません。相手が求めている内容は何かを考えると、 様々な説明の方法があることに気づくでしょう。それらは、必ずしも科学技術の基礎的知識を必要としない事柄です。

 第二に、コミュニケーションは広報だけの仕事ではありません。あなたが組織のトップであれば、 トップとしての判断を示すように求められるでしょう。リスク評価の専門家であれば、 専門家としての判断をわかりやすく説明できなければなりません。これらの役目を担っていなくても、 あなたの組織がどう考えているのかを質問される可能性があります。 これらは広報の担当者が代弁できないことですし、常に広報担当者がそばについていてくれるわけではありません。





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