心得2「リスク情報は程度≠フ視点から利用しよう」

 私たちは、テレビや新聞、本、講演会などで、健康や環境のリスクについて様々な情報を得ています。 このリスク情報を利用する際には、「リスクがあるか・ないか」ではなく「どの程度のリスクなのか」という視点で考えてみましょう。 「リスクがあるか・ないか」という視点から見ると、人間の活動や科学技術、それから人工、自然の化学物質すべてにリスクがあるといえるからです。

 この「リスクがあるか・ないか」と2分する視点のまずいところは、リスクの程度を考えず、 「どうせリスクがあるから同じ」と判断してしまうことです。けれども、たとえば、かすり傷も骨折もどちらも嫌なことですが 「どうせ同じ」とはだれも考えないでしょう。

 昼休みのバドミントンと冬山のスキーとではどちらもケガをする可能性はありますが、 起こりうるケガの程度や可能性の高さなどが違うので、そのための予防策(準備運動)や準備すべき態勢 (応急処置や医療施設への搬送体制)は違うレベルで整えておくことが求められます。

 これを「リスクがあるか・ないか」という視点で判断してしまうと、 ずっとリスクの高い物質や技術なのに低いリスクのものと同じ対応をしておくだけでいいと考えてしまったり、 逆に、わずかなリスクしかなく社会に役立っているのにその技術を使わないでおこうと考えてしまったりするかもしれません。

 こういった「程度で考える」というのは日常生活でふつうにやっている判断のしかたです。 ところが、化学物質や先端科学技術の影響については、「リスクがあるか・ないか」で判断してしまうことがしばしばあります。

リスクを「程度で考える」ために役立つ心得は、次の3つです。



心得2a. 分母をそろえて比較しよう

心得2b. 幅をそろえて比較しよう

心得2c. 自分にとってどの程度切実な問題か

心得2a. 分母をそろえて比較しよう



心得2a. 分母をそろえて比較しよう

 同じひとりの被害者が出る場合でも、被害者が千人のうちのひとりであるか、 10万人にひとりであるかによって、リスクの大きさは全然違います。 被害者の数だけに注目するのではなく、その分母となっている人数にも目を向け、 たとえば、あなたが直面している問題では10万人あたりの年間被害者は何人と推定されているか情報を整理しましょう。 あるいは平均寿命に対する損失余命(寿命の縮まり具合)は何年でしょうか。 手許にこれらの情報がなければ、関係部局に問い合わせればよいでしょう。 こうして分母をそろえ、ほかのさまざまなリスクの大きさと比較することで、直面している問題がどのくらい大きなリスクなのかを把握できます。

 「分母をそろえて比較する」というのは、当たり前だと思われるでしょう。 しかし、意外に私たちは頭の中で分母の違うものを比較してしまいがちです。 特にリスク情報では、「何人死亡」といった内容が多く、分母がいくつなのかわかりにくいことがあります。 分母をそろえて比較するために、リスク情報では単位に気をつけましょう。


表1と2は、日本人の死因データを示したものです。

表1 死因ランキング(厚生省「人口動態統計」より)

全死因 782.9
第1位 悪性新生物(がん) 229.4
第2位 心疾患 119.3
第3位 脳血管疾患 109.7
第4位 肺炎 74.2
第5位 不慮の事故 31.6
第6位 自殺 25.0
第7位 老衰 18.0
第8位 腎不全 14.1
第9位 肝疾患 13.2
第10位 交通事故 10.5
数値は日本の全人口を分母とし、10万人あたりの死亡率を計算したもの(平成11年データ)







表2 病気以外の死因(厚生省「人口動態統計」より)

死因死亡数備考
全業種の労働災害4.6全労働者数に対する死亡数(1999年)
自動車乗車中の交通事故3.124時間以内の死亡(2000年)
歩行者の交通事故2.0同上
二輪車乗車中の交通事故1.2同上
火災0.872000年
水難0.81同上
自転車運転中の交通事故0.7824時間以内の死亡(2000年)
殺人0.412000年
山岳遭難0.19同上
船舶による事故0.09同上
水上レジャースポーツ事故0.07スキューバダイビングなど(2000年)
自然災害0.062000年 台風など0.01、落雷0.005
列車などによる事故0.032000年
空中レジャースポーツ事故0.01ハンググライダーなど(2000年)
航空機による事故 0.0092000年
爆発物による事故0.0022000年
労働災害を除いて、数値は日本の全人口を分母とし、10万人あたりの死亡率を計算したもの(平成11年データ)






表3 年齢別死亡率と三大死因(厚生省「人口動態統計」より)

年齢階層死亡率死因第1位死因第2位死因第3位
0〜4歳94.5先天性奇形および
遺伝子異常 28.1
周産期に発生した
病気    20.3
循環器系の
先天奇形     14.6
5〜9歳13.3不慮の事故  4.6交通事故   2.4悪性新生物  2.0
10〜14歳12.9不慮の事故  3.2悪性新生物  2.6交通事故   1.5
15〜19歳35.4不慮の事故  15.2交通事故   12.6自殺     7.1
20〜24歳48.9不慮の事故  16.4自殺   16.3交通事故 12.5
25〜29歳52.9自殺 19.0不慮の事故 11.9交通事故 8.1
30〜34歳66.2自殺 21.0悪性新生物 11.9不慮の事故 10.5
35〜39歳90.2自殺 23.0悪性新生物 22.3不慮の事故 10.0
40〜44歳140.0悪性新生物 44.2心疾患 15.7脳血管疾患 12.2
45〜49歳235.8悪性新生物 87.0心疾患 26.2脳血管疾患 22.3
50〜54歳353.2悪性新生物 146.4心疾患 38.9脳血管疾患 34.4
55〜59歳534.2悪性新生物 235.9心疾患 60.5脳血管疾患 48.9
60〜64歳828.0悪性新生物 382.8心疾患 101.4脳血管疾患 82.9
65歳以上3653.7悪性新生物 995.6心疾患 606.9脳血管疾患 572.5
数値は日本の全人口を分母とし、10万人あたりの死亡率を計算したもの
(平成11年データ)


表4 交通機関別リスクの比較

交通機関別死亡リスク(単位)自動車飛行機列車
利用者数と移動距離あたりで計算した時(100億人・マイル)0.550.380.23
利用者数あたりで計算した時(100万人)0.0271.80.59
(表4はいずれも米国のデータ)
出典:Covello, T. V., Risk comparisons and risk communication:
Issues and problems in comparing health and environmental risks,
in Kasperson, R. E.(ed.), Communicating Risks to the Public, Kluwer Academic Publishers, 1995.


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